2013年01月28日

『ライフ・オブ・パイ』

『ライフ・オブ・パイ』、場所と時間で決めたら3D字幕版しかなかった。私は左右の視力が極端に違うせいか3D見ると眼が疲れるので、普段はできるだけ避けているのだが、背に腹は代えられないので3Dで見てきた。

が、これまでの3D映画のように、これみよがしに物体が飛び出たり、不自然に立体感が強調されたり、ってことがほとんどない。ナチュラルに映像に広がりがあって、とくに最初の動物園のシーンはBBCのネイチャー・ドキュメンタリーを大画面で見てるようでとても美しい。2Dで見た人は一部CGぽかったと話していたが(ボートのシーンの動物の多くはCG)、3Dで見た限りではCGとは思えないリアルさだったので、3Dに最適化してあったのかも。

トレイラーだけ見てるとトラと漂流したサバイバル映画みたいだが、実際は成長したパイ(カナダに住んでいる)のもとに作家が訪ねてきて、彼の人生についての話を取材する、という趣向になっている。その流れで遭難の話になるわけですな。

パイ(円周率)と名乗るようになった由来とか、ヒンドゥ教徒であるのにキリスト教やイスラム教に同時に帰依するようになった経緯などは、ちょっとコミカルに描かれている。ただ英語を知らないと、本名の「ピシン」の何が問題なのかわからんかも。

(以下ネタバレあるので、未見の方はご注意ください)

脚を折ったシマウマ、子供を失った雌オランウータン、餓えたハイエナ、そして体重200キロを超えるベンガルトラ。海難事故の生き残りはパイのほかにこの4頭だけ。やがてシマウマとオランウータンはハイエナの餌食になり、そのハイエナもトラに斃される。その後の長い漂流期間を、パイはトラとともに生き延びようとする。

テリトリーを守るためボートの資材でイカダをつくってトラと距離をたもったり、クジラのジャンプのためにイカダに移した食糧や水が流されたり、トビウオの群れに遭遇してボートじゅうトビウオだらけになったりと、リアルなサバイバルの物語が続く。

冒頭、大人になったパイが語り手として登場してるので、彼が助かるのはわかっている。したがって「たとえ発見されても、トラなんかいたら救助してもらえないんじゃ?」「トラ死んじゃうの?」という視点で見ていたわけだが。

ミーアキャットの楽園のように見えた浮島が実は「肉食性」であるという不気味な展開に、視聴者はこの物語はひょっとして幻想なのでは?と思い始めるだろう。

物語に登場するトラの名前は、書類の書き間違えから本来つけられたサースティではなくリチャード・パーカーとなっている。実はこれ、エドガー・アラン・ポーの海洋ホラー小説に出てくる人物の名前である。海で遭難してボートで漂流する4人の男が、食糧が尽きたときにくじ引きをして、貧乏くじをひいたリチャード・パーカーが死んで食糧にされる、という話。これを地で行く事件も起こっていて、そのときの犠牲者は奇しくもリチャード・パーカーという。

保険会社の調査員は、救助されたパイの話を信じない。そこでパイは別の話をする。ポーの小説のような、ボートで漂流した4人の遭難者の話を。その4人とは足を骨折した水夫、パイの母、ずるがしこい料理人、そしてパイ。料理人は水夫を殺して食べ、彼に立ち向かったパイの母を殺した。そしてパイが料理人を殺した。

どちらの話が「事実」なのか?それは実はどうでもいいことなんである。どちらの話もパイの苦難の旅を別の方法で語ったにすぎない。だからどっちが「ホントウ」かなんて、考えるだけ野暮というもの。

トラが出てくる話とそうでない話のどちらをとるかはあなた次第。私ならトラの物語をとる。世界は不思議に満ちているのだから、メキシコの森林のどこかでひっそりと生きた、リチャード・パーカーという名のベンガルトラがいてもおかしくはない。

ところで、トレイラーで使われていたCold Playの"Paradise" のPVでは、ゾウ(の着ぐるみ)が一輪車に乗って自分のバンドを探しに行く。まあそんなことがあってもおかしくはない。
posted by bluegene at 02:39| Comment(0) | 映画
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